「諸君、ここが連邦の左端だ。決して退くな!」
(『ゲティスバーグの戦い』リトル・ラウンド・トップの1シーン)
先日告知させていただきましたとおり、7月1日のゲティスバーグ戦149周年記念日に、東京都新宿にて映画『ゲティスバーグの戦い ‐南北戦争運命の三日間‐』の上映会を開催いたしました。
突然の告知で、かつ4時間以上もある大作であり、人はほとんど来ないだろうと事務局では考えていたのですが、結果として会員、非会員の方あわせて5人もの方々に集まっていただき、盛大裡に終わらせることができました。正会員として登録していただいた方も1人おられ、これで本会は7人体制となりました。大変ありがとうございます。
上映会終了後、正会員3人にて、場を上映会場そばの喫茶店に移し、今後の会運営について話し合いを持ちました。その結果、ゲティスバーグ戦150周年となる来年、会として訪米団を組むことを正式に決定いたしました。訪米時期などについては今後さらにつめ、年末から年明けにかけて正式発表したいと思いますが、多くの方々とともにアメリカ訪問ができれば、これ以上ない幸せと思います。
その後、「リーはやはり名将ではない」「スチュアートの失態と騎兵戦の現実」「アイリッシュ旅団は本当に悲劇の美談なのか」「対英仏外交戦からみるマクレランの無能」「南北戦争をダメにしたナポレオン信仰という病」といった懇談を交えて散会といたしましたが、ご参考のため、その懇談の一部を文字化して提示してみたいと思います。このような会話を楽しんでいる集団です。なお、この書き起こしについては、事務局に一切の文責があります。
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A「映画『ゲティスバーグ』は、やはり南軍側の主人公がロングストリートだから、リーをそう評価した描き方をしていない。むしろ見ようによっては愚将とでもいえるような感じになっている」
B「ただピケット・チャージはやはり愚策だから。なんであんなことをしてしまったのか」
C「そう、あれをやってしまったという事実がある限り、リーは決して名将ではない。そもそも、彼はアンティータムも失敗している。北部へ遮二無二攻めるという戦略は、彼が企図して推進したことなんだから、それに失敗している時点でね。南部に欠くべからざる人だったし、素晴らしい人格者なんだが、やはり名将というのとはちょっと違う」
A「あせっていたんだろうか。そもそもゲティスバーグ2日目で、本来の戦略的意図は完全に破綻しているわけだし」
C「だったら2日目で軍を退くという選択肢もあったんじゃなかろうか。北部でそれをやったら軍司令官解任だろうが、南部では許されたと思う」
B「いや、リーはもうこれを逃したら、南部が攻勢に移る機会はないと考えていたはず。何かやらなきゃいけなったんだろう」
C「南軍の中では、際立って異様な戦略を持っていた人だから」
A「やはりそこであせって退けなくなったのか」
B「にしても中央突破でピケット・チャージは筋が悪すぎる」
A「スチュアートが勝手に戦場を離れていたという点、映画ではそう強調されてはいなかったが、重要なポイントだ」
B「軍の目である、重要な斥候部隊が完全に行方不明だったんだから」
C「ただ南軍の部隊に相互連絡がないというのは、もうお家芸だから。半島戦役では斥候部隊どころか、重要な実戦部隊が戦場で突然行方不明なんてことがあったし。ファースト・ブルランだって…」
B「あれは南軍の大勝とされてるけれども…」
C「あの戦闘の決着したその時点で、南軍側に『われわれは勝った!』と正確に把握してた人間なんていない。部隊間の横の連絡は何もないし、上級司令部に情報を上げる者だっていない。単に『北軍が撤退した』というだけで、南軍側は自分たちが勝ったことも分かってなかったはず。ましてや追撃なんてとても…」
A「でも北軍はわりと初期からそういう点がきちんとしている」
C「よくも悪くも役所的、官僚的な陣営なんだ」
B「あと、南軍というのは、結局土地の名士である奴隷農園主が、地元の若い者を集めて結成した、悪い意味での『村の消防団』みたいなもの。それで指揮官は金持ちのボンボンで、まあ社会性がない。でも北軍の指揮官というのは、戦争が始まる直前まで、弁護士だったり銀行家だったり、鉄道会社に勤めてたりと、きちんとした社会経験のある人が多い」
C「社会人経験って、こういうところでも大事なんだということか」
A「ところで『Gods & Generals』もそうだが、この映画シリーズはアイリッシュ旅団の扱いがなかなかいい。ピケット・チャージを支えきったのは、ニューヨーク州第69連隊だったような描き方だし」
B「『Gods & Generals』ではフレデリックスバーグ戦が泣けた。南北に分かれた同じアイリッシュ部隊が泣きながら撃ち合うという…」
C「まあ、映画としてはね、なかなか泣かせる展開だけれども、あそこまで美化できるものかなあというのはある。もともとアイルランドには、アルスター地方(北アイルランド)とそれ以外の地域の、壮絶な地域間対立があった。また、ニューヨーク州第69連隊を中心としたアイリッシュ旅団は、トマス・マハーという、後のIRAの系譜にもつながる革命家が率いていた部隊で、非常に政治的な背景がある。アイルランド本国人だって、みんながマハーのような人物を肯定しているわけじゃない。ジャガイモ飢饉によるアイルランド移民の大流出というのは、そういうアイルランド国内の対立構造を、他国にそのまま移植してしまったような現実もあるわけで…」
B「フレデリックスバーグで撃ち合ったのにも、何かそれなりの理由があるんじゃないかと」
C「そういうこと。ちゃんと調べなきゃいけない話だが、単なる悲劇の美談にしていいのかというのはある」
A「アイルランドつながりということで、イギリスの話題を。映画に南軍陣営にいるイギリスの観戦武官がいたけれども…」
B「まあ、これは後知恵で言うわけだが、英仏が南部の独立を承認することなんて、絶対にありえない」
A「そうだろうね」
C「それにはまったく同感なんだが、でもやっぱりそれは後知恵。当時としては、やっぱりリンカーンは英仏の動向が怖くて仕方なかったと思う」
B「それは確かに」
C「だからとにかくこの戦争を早急に片付けなくちゃいけないと。兵隊の練度とか、純軍事的条件とか、度外視にしてもいい。とにかくリッチモンドめがけて、矢継ぎ早に兵隊の血肉をぶつけて、南部を一刻も早く叩き潰さないとというのがあった」
B「それゆえのあの犠牲と」
A「だからやっぱり、マクレランは評価されないわけで」
B「グラントのようなのが、リンカーンにとっての英雄だったわけだ」
C「マクレランというのは、本当にナポレオンになりたかったのかな」
A「それはそうだと思う。これはマクレランに限らず、南軍側の将軍にも多いんだが、とにかくやたらと機動戦をやりたがる」
C「ああ、フランク(側面)、フランクと…」
B「ナポレオン型だね。ただ、南北戦争でそれはほとんど成功しないんだけど」
A「とにかく状況がナポレオン時代とはまるで違う。政府のあり方も違うし、武器の性能も違う。国土のあり方だって違う」
B「そういう何もかも違う場所で、ナポレオン流の精緻な『軍事技術ショー』をやろうとした将軍がたくさんいて、そして彼らはまったく成功できずに、えらい目にあって表舞台から消えていく」
A「ナポレオン信仰というのは、南北戦争において罪深いと感じるね」
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(事務局)
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